建設業界の経営的観点における外国人実習生を迎えるメリット、デメリット

2021.06.07

前回は建設業界における外国人実習生の立ち位置について考えてみました。
日本人の定着率が低い建設業界において「技術実習」を行う外国人実習生は無視できない存在になってきています。

 

では実際に外国人実習生を迎えてみてどうだったのか。
経営者的観点から見てのメリット、デメリットについて考えてみたいと思います。

 

実習生を迎えるメリット

目を見張るモチベーション

ビニールで覆いメンテナンス

何より一番のメリットはこれだと思います。

 

日本人と異なり、「選択肢」の少ない彼らの集中力は目を見張るものがあります。
働きをしっかりと評価する仕組みをとれば、同年代の日本人より遥かに優れた働きを見せてくれます。

 

実習生の中には「出稼ぎ」の為と割り切って制度を活用してる者も少なくありません。
というのも帰国後、日本で習得した技能を活かした職につける者は、そう多くないという現実があるからです。

出稼ぎ

日本でしっかり稼いで、家族に仕送りする、もしくは帰国後の活動費用に充てる。
そのように割り切って3年間を過ごす実習生は少なくないと感じました。

 

日本の物価はベトナムの約5倍。1万円がベトナムでは5万円ほどの価値を有します。
単純にベトナム人は日本人の5倍のモチベーションがあるといっても過言ではありません。

溶接

当社ではしっかりと稼いでほしいという想いから、同業他社より高めの給与を設定し、働きに応じて、しっかりボーナスも支給する体制を取りました(時給にて換算するため、ボーナスを支給しない企業も多いと聞きます)。

 

すると言語の壁もある中、正直驚くくらいのスピードで技術を習得していってくれました。
帰国して技術を活かさないのがもったいないくらいのスピードです。

 

これは「選択肢」の多い日本人にはない特徴だと思います。

 

実習生を迎えるデメリット

企業側の支出は日本人新卒とあまり変わらない

賃金
「奴隷制度」と揶揄される実習制度。
格安で労働力を確保するために使用するという側面があると思われがちですが、実は「世間が思ってるほど安くない」というのが正直なところだと思いました。

 

もちろん制度を理解し、誠意をもった対応をすること前提です。

 

実習生側も選択する権利があるので、しっかりとした条件を示さなければ、中々応募が無いのは普通の求人と変わりません。

 

また、人材仲介、定期的に行われる技能テストの費用、交通費、その他諸々を含め、私たちのような待遇で迎えると、結果として日本人新卒を雇うのとほとんど変わらないような額になります。

 

3年間限定で実習生を迎えるか、定着率の低い日本人に賭けてみるか。
職員採用の現場ではこのようなジレンマに陥っている企業も少なくないと思います。

 

3年というリミット


実習生という立場上、会社に迎えることができるのは3年間という制限があります。
それ以上の期間滞在する為には特定技能で2年間再雇用するか日本人と結婚するなどして実習生の枠組みから外れてもらうしかありません。

 

つまり余程のことが無い限り、どんなに成長しても5年間でリセットされてしまうということです。

 

最長2年間延長することもできますが、先述のとおり「出稼ぎ」を目的とする実習生が多い為、3~5年で帰国する人が通例です。

 

また、ベトナムの方は家族をとても大切にされる傾向にあるようです。
そのような観点からも3年限定の日本滞在となる場合がほとんどだと思います。

 

言語の壁


当然ですが、日本に来た時点で日本語を完璧に習得している実習生はいません。
それどころか、ほぼしゃべれないという人がほとんどだと思います。

 

安全第一を掲げる私たちの現場では様々な指示が飛び交います。
若くて意欲に溢れる彼ら。覚える速度は速かったと思いますが、やはり細かいニュアンスを伝えるのには終始苦労しました。

 

特に仕事中に使用する言葉は日常生活では触れることもないものが多数。
一生懸命覚えようとする姿勢は多分に感じるのですが、言語の壁は決して低くないと感じました。

 

車の運転ができない


様々な機材を抱える私たちの仕事に車は必須アイテム。これを単独で動かすことができるか否かは久留米のような地方においては重要な要素です。

 

運転免許証を持っている日本人なら、まだ技術的にできることが少ない場合でも、先行して現場で準備を進めさせるなど、実際の作業以外での様々な活躍を期待できます。
しかし、実習生の場合はそれができません。

 

機材を調達しに行ったり、簡単な手続きをしたり、機材を移動させたり…。
仕事を進める上で発生する雑務を単独で任せることができないというのは決して小さくない要素だと思いました。

経営的視点から「総論」

笑顔

実際に外国人実習生を迎えてみて、経営的観点からの私の結論は
「一時的人材と捉えると十分。しかし、日本人を雇えることに越したことはない」でした。

 

言語の壁、運転免許証の有無などを差し引いても、彼らの意欲・モチベーションと、それから来る仕事に対する安定感は目を見張るものがあります。
もし彼らが定着することができれば非常に頼もしい存在になっていたでしょう。

 

しかし、やはり3年という期限の壁は大きかったというのが正直なところです。
迎えるにあたっての費用も世間的な認識とは異なり、日本人と大きな差があるわけではありません。

 

悩む社員

安定というのは企業における永遠のテーマです。

 

安定の為、日本人を雇って定着してもらうに越したことはない。
⇒しかし、日本人は色んな選択肢があるが故に定着率がかなり低い。
⇒なので応急処置的に実習制度を活用する。
という流れの中にいる企業さんは少なくないのではないでしょうか。

社員の様子

このように書いていますが、今回迎えた彼らは期待以上の動きをしてくれたと私は思っています。

 

彼らを迎える為の様々なハードルよりもたくさんの効果を会社にもたらしてくれました。

 

そしてなにより私自身も経営者として新たな発見をすることができました。

 

改めて実習生視点から考えてみると、人生において大切な20代前半の3年間を、日本という右も左もわからない環境に委ねることになるのです。

 

(メディアの報道でよくあっている)その不安に付けこむようなことは人としてあってはならないと思いますし、日本を、そして福岡を好きになってもらえるよう、一人の人間として、経営者として向き合っていかないといけないと感じました。

帰国

迎える側、迎えられる側それぞれ本音と建前が存在する以上、歪さがある制度だとは思います。
だからこそ、一人の人と人との関係性が大切な制度であることは間違いありません。

 

報道にあるような心痛める環境はいずれ日本にとってマイナスになるような気がしてなりません。

 

そのような劣悪な環境が減り、迎える側・迎えられる側、双方が誠意をもって本制度を活用していくような事例が増えることを祈りつつ、一経営者として向き合っていきたいと思います。